未払賃金立替払制度は、勤め先が倒産し、給与や退職金が支払われないまま退職した人に、国が未払額の一部を立て替えて支払う制度です。立替払額は対象となる未払賃金の80%で、退職日の年齢により上限が決まります。最高額は45歳以上の296万円です。
ただし、会社から支払われていない金額のすべてが対象になるわけではありません。賞与や解雇予告手当は対象外です。また、退職時期、倒産手続、請求期限の条件をそれぞれ満たす必要があります。会社と連絡が取れない場合も、期限を待たず、勤務していた事業場の所在地を管轄する労働基準監督署へ相談してください。
最初に確認する6項目
| 確認項目 | ポイント |
|---|---|
| 勤め先 | 労災保険の適用事業として原則1年以上事業を行っていたか |
| 倒産の状況 | 法律上の倒産か、中小企業の事実上の倒産か |
| 退職 | 未払賃金を残したまま退職しているか |
| 退職時期 | 倒産手続の申立日などの6か月前から2年間の範囲か |
| 未払額 | 対象となる定期賃金・退職手当の合計が2万円以上か |
| 期限 | 倒産の決定・認定後の立替払請求期限を過ぎていないか |
労災保険への加入手続や保険料納付がされていなかった会社でも、実態として労災保険の適用事業であれば対象になる場合があります。「会社が保険料を払っていないから使えない」と自己判断せず、労働基準監督署へ確認してください。
未払賃金立替払制度を利用できる人
主な対象は、次の条件を満たす労働者です。
- 倒産した事業主に雇われ、賃金を受け取って働いていた
- 会社が労災保険の適用事業として原則1年以上事業を行っていた
- 対象期間内に退職した
- 定期賃金や退職手当が未払いになっている
- 破産管財人等の証明、または労働基準監督署長の確認を受けた
正社員だけの制度ではありません。労働基準法上の労働者に当たれば、パート、アルバイト、外国人労働者も対象です。倒産前に自己都合で退職した場合も、退職時期などの要件を満たせば対象になり得ます。
一方、代表権を持つ会社役員、事業主と同じ立場にある同居親族、家内労働法上の内職従事者などは原則として対象外です。肩書が役員でも、代表権や業務執行権を持たず、他の役員の指揮監督下で賃金を受けて働いていた場合は、労働者と認められることがあります。
「法律上の倒産」と「事実上の倒産」で手続が違う
| 区分 | 主な状態 | 最初の相談・証明先 |
|---|---|---|
| 法律上の倒産 | 破産、特別清算、民事再生、会社更生の開始決定など | 破産管財人、清算人、再生債務者、管財人など |
| 事実上の倒産 | 事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金を支払う能力がない | 会社所在地を管轄する労働基準監督署 |
法律上の倒産では、事業主が大企業か中小企業かを問いません。事実上の倒産として認定を受けられるのは中小企業です。業種ごとの主な基準は次のとおりで、「資本金または労働者数」のどちらかを満たすかで判断されます。
| 業種 | 資本金 | 労働者数 |
|---|---|---|
| 一般産業(卸売・サービス・小売を除く) | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
「社長と連絡が取れない」「店や事務所が閉鎖されたが、破産の通知はない」という場合は、事実上の倒産に当たる可能性があります。ただし、単に赤字や債務超過であるだけでは認定されません。事業活動の停止、再開の見込み、賃金支払能力を労働基準監督署が確認します。
受け取れる金額は未払賃金の80%
立替払額は、対象となる未払賃金総額の80%です。ただし、未払賃金総額には退職日の年齢別の限度額があります。
| 退職日の年齢 | 計算対象になる未払賃金の上限 | 立替払の上限 |
|---|---|---|
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
たとえば、退職日に35歳で、対象となる未払賃金が200万円なら、立替払額は160万円です。未払賃金が300万円あっても、30歳以上45歳未満の計算対象上限は220万円なので、立替払額は176万円になります。
「最大296万円」は全員共通の上限ではありません。退職日の年齢と対象未払額の両方で決まります。また、制度が支払うのは原則80%で、残り20%が会社から免除されるわけではありません。立替払を行った機構は、支払った範囲の賃金請求権を引き継ぎ、倒産した事業主などへ求償します。
対象になる給与・退職金と、対象外の支払い
対象となるのは、退職日の6か月前の日から、労働者健康安全機構へ立替払を請求する日の前日までに支払期日が到来した未払賃金です。
| 対象になるもの | 対象にならないもの |
|---|---|
| 基本給 | 賞与・ボーナス |
| 家族手当・通勤手当 | 解雇予告手当 |
| 時間外手当 | 賃金の遅延利息 |
| 就業規則などに基づく退職手当 | 慰労金・祝金などの福利厚生上の給付 |
| 退職日以前の労働分を日割りした賃金 | 旅費・用品代などの実費弁償 |
定期賃金は、所得税・住民税・社会保険料などの法定控除前の金額を基礎に確認します。ただし、会社からの貸付金返済や社宅料など、会社の債権に基づいて賃金から控除される予定だった金額は差し引かれる場合があります。
未払賃金総額が2万円未満の場合は制度の対象外です。退職金は、就業規則や退職金規程などで具体的な支給条件と金額を確認できることが前提になります。
未払賃金立替払の対象は、退職日の6か月前から請求日前日までに支払期日が来た定期給与と退職金で、賞与は対象外です。立替額は未払賃金の80%ですが、退職時年齢に応じて上限(45歳以上296万円、30歳以上45歳未満176万円、30歳未満88万円)があり、未払賃金総額が2万円未満の場合は対象外です。法律上の倒産や事実上の倒産の認定から2年以内という請求期限もあるため、退職日・支払日・倒産手続きの日を記録してください。厚生労働省「未払賃金の立替払制度Q&A」
期限は一つではない|6か月と2年を分けて確認
| 期限・期間 | 確認内容 |
|---|---|
| 退職時期の対象期間 | 破産手続開始等の申立日、または事実上の倒産認定申請日の6か月前の日から2年間に退職 |
| 事実上の倒産の認定申請 | 原則として退職日の翌日から6か月以内 |
| 立替払の請求 | 破産手続開始決定等、または事実上の倒産認定の日の翌日から2年以内 |
特に注意したいのが、法的な倒産手続をしていない会社です。事実上の倒産の認定申請は、退職後6か月を過ぎると間に合わない可能性があります。会社から「来月には払う」と言われていても、未払いが続き、事業停止や連絡不能の状態なら早めに労働基準監督署へ相談してください。
法律上の倒産の場合の申請手順
- 倒産手続と証明者を確認する
破産なら破産管財人、会社更生なら管財人、特別清算なら清算人、民事再生なら再生債務者等が主な証明者です。 - 未払賃金額などの証明を受ける
所定の「未払賃金立替払請求書・証明書」により証明を受けます。 - 立替払請求書を提出する
紙で請求する場合は、請求書と証明書を切り離さず、必要事項を記入して労働者健康安全機構へ送付します。 - 証明内容を確認する
金額や退職日に誤りがある場合は自分で書き換えず、証明者へ訂正を求めます。証明を得られない項目がある場合は労働基準監督署へ相談します。
事実上の倒産の場合の申請手順
- 労働基準監督署へ相談する
退職した事業場を管轄する労働基準監督署へ、会社の営業状況と賃金未払いを伝えます。 - 事実上の倒産の認定を申請する
認定は自動では行われません。退職労働者からの申請が必要です。1人が認定を受ければ、その認定の効果は他の退職労働者にも及びます。 - 未払賃金総額等の確認を受ける
認定後、請求する労働者ごとに退職日、未払賃金額などの確認を受けます。 - 立替払を請求する
確認通知書の交付後、紙または電子で労働者健康安全機構へ請求します。
電子請求も利用できる
未払賃金立替払は、労働者健康安全機構の専用サイトから電子請求できます。法律上の倒産では破産管財人等へ、事実上の倒産では労働基準監督署へ、電子請求を希望することを伝えてください。
電子請求を選んでも、倒産や未払賃金額の証明・確認が不要になるわけではありません。証明者や労働基準監督署で必要な手続を済ませたうえで、専用サイトの手引きに沿って請求します。
手元に残しておきたい資料
- 雇用契約書・労働条件通知書
- 給与明細、賃金台帳の写し
- 給与振込口座の通帳・取引明細
- 就業規則、給与規程、退職金規程
- 出勤簿、タイムカード、シフト表
- 退職日を確認できる離職票、退職証明書など
- 会社や破産管財人から届いた通知
- 未払いについて会社とやり取りしたメール・メッセージ
資料が全部そろっていなくても相談はできます。会社が閉鎖される前に、給与明細や勤務記録を自分の手元へ保存してください。会社の端末やメールだけに保管していると、退職後に確認できなくなることがあります。
立替払金の税金
立替払金は、定期賃金分と退職手当分のどちらも退職所得として扱われ、ほかの所得と分けて課税されます。請求書にある「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」へ必要事項を記入すると、退職所得控除が適用されます。申告書に記入がない場合は、立替払額の20.42%相当額が源泉徴収されるため、空欄のまま提出しないよう注意してください。
支払が決まると、労働者健康安全機構から「未払賃金立替払決定支払通知書」と、退職所得の源泉徴収票・特別徴収票が送付されます。確定申告や税務上の確認に備えて保管してください。
会社が営業中の場合は、通常の賃金未払いとして相談
未払賃金立替払制度は、倒産に伴い退職した労働者の制度であり、在職中は立替払の対象になりません。会社が通常どおり営業している場合は、給与明細、勤務記録、振込履歴を持って、勤務している事業場の所在地を管轄する労働基準監督署へ賃金未払いとして相談してください。
ただし、民事再生など法律上の倒産手続に入っていれば、会社が営業を続けていても対象になる場合があります。「営業しているから倒産ではない」と決めつけず、倒産手続の種類を確認することが大切です。
申請前チェックリスト
- 未払額を給与分と退職金分に分けて整理した
- 賞与・解雇予告手当など対象外の金額を分けた
- 退職日と倒産手続の申立日・認定申請日を確認した
- 法律上の倒産か、事実上の倒産かを確認した
- 事実上の倒産なら、退職後6か月の認定申請期限を確認した
- 年齢別の上限と80%の計算を確認した
- 給与明細、通帳、勤務記録、会社からの通知を保存した
- 紙と電子のどちらで請求するか証明者・労働基準監督署へ伝えた
公式情報
未払賃金立替払制度は、企業の倒産に伴って賃金が未払いのまま退職した人へ、国が未払賃金の一部を立て替える制度です。立替額は未払賃金総額の8割ですが、退職時の年齢ごとに限度額があり、45歳以上は未払賃金370万円を上限として最大296万円です。倒産の証明、退職日、未払賃金を確認できる資料をそろえ、請求期限は退職日など個別事情で変わるため、早めに労働者健康安全機構または労働基準監督署へ相談してください。厚生労働省「未払賃金の立替払制度Q&A」
※制度内容は2026年8月11日に確認しました。個別の対象可否、未払賃金額、必要書類は、倒産手続と勤務状況によって異なります。期限が近い場合や会社と連絡が取れない場合は、資料がそろうまで待たず、勤務していた事業場の所在地を管轄する労働基準監督署へ相談してください。


