「働きたい気持ちはあるけれど、朝起きられない」「人と話すことに強い不安がある」「仕事をしていない期間が長く、いきなり面接へ進むのは難しい」。このような人は、求人に応募する前の準備から支援を受けられる可能性があります。
就労準備支援事業は、生活困窮者自立支援制度の一つです。生活リズム、他者との関わり、地域活動、就労体験などを、本人の状態に合わせて整えながら、一般就労や社会参加につなげます。
ただし、就労準備支援事業は、生活費を現金で給付する制度でも、返済が必要な貸付制度でもありません。就職を一律に迫る仕組みでもありません。生活費、家賃、医療、住まいなどの問題がある場合は、生活困窮者自立支援制度の総合記事も確認しながら、最初の相談で困りごとをまとめて伝えてください。
就労準備支援事業とは?
就労準備支援事業は、長期の離職、対人関係への不安、生活習慣の乱れなどにより、ハローワークの職業紹介や職業訓練を利用しても、すぐに就職することが難しい人を対象に、就労に向けた基礎的な力を整える支援です。
就労準備支援事業は自治体が実施主体となる任意事業です。自治体が直接行う場合と、民間事業者へ委託して行う場合があり、実施の有無、支援方法、利用できるメニューは地域によって異なります。
| 確認すること | 就労準備支援事業の位置づけ |
|---|---|
| 支援の種類 | 相談・訓練・就労体験などの支援 |
| 現金の給付 | この事業を利用しただけで生活費が振り込まれる制度ではない |
| 貸付 | 返済が必要な貸付制度ではない。貸付が必要な場合は別制度を案内されることがある |
| 実施者 | 自治体の直営または委託事業者 |
| 最初の相談先 | 市区町村などの自立相談支援機関 |
対象になる人
すぐに就職するのが難しい事情がある人
厚生労働省の手引きでは、就労準備支援事業の対象者像として、次のような事情が挙げられています。
- 就労するための生活習慣が整っていない
- 他者との関わりに強い緊張や不安があり、コミュニケーションが苦手
- 自尊感情や「役に立てる」という感覚を失っている
- 仕事をしたい気持ちはあっても、働くイメージを持てない
- 就労に必要な情報が不足している
- 長期間の離職、就労経験の少なさ、離転職の繰り返しなどで職場定着が難しい
- ひきこもり状態などにより、社会参加から段階的に準備する必要がある
失業している人だけが対象ではありません。働いていても、収入の減少や心身の不調、家族の事情などで生活が不安定になり、すぐに働き続けることが難しい場合は、まず自立相談支援機関へ相談できます。
収入・資産の要件
就労準備支援事業には、生活困窮者自立支援法と施行規則に基づく収入・資産の考え方があります。全国一律の「月収○万円以下」という金額ではなく、申請月、世帯人数、自治体の基準などで変わります。
| 確認項目 | 施行規則上の考え方 |
|---|---|
| 世帯収入 | 申請月の世帯収入が、住民税均等割が課されていない人の収入をもとにした基準額(月額)と、生活保護の住宅扶助基準に基づく額を合算した額以下 |
| 金融資産 | 申請日における本人と同一世帯の金融資産の合計が、基準額の6倍以下 |
| 基準に準ずる場合 | 収入・資産の把握が難しい、基準に該当するおそれがある、または自治体が支援の必要性を認める場合など |
ここでいう基準は、住民税非課税世帯の給付金と同じ判定をするという意味ではありません。住民税非課税かどうかだけで利用可否を自己判断せず、世帯収入、資産、生活状況、就労上の課題をまとめて窓口で確認してください。
生活保護を利用している人
2025年4月以降、生活保護受給者のうち、福祉事務所が状況に照らして必要と認める「特定被保護者」は、生活困窮者向けの就労準備支援事業を利用できる仕組みがあります。
「特定被保護者」は、生活保護を利用していれば自動的に該当するという意味ではありません。厚生労働省の手引きでは、①将来的に保護を必要としなくなることが相当程度見込まれる人、②福祉事務所が被保護者向け事業を実施しておらず、生活困窮者向け事業が必要と認める人、③被保護者向け事業があっても支援内容が本人の状態やニーズに合わないなどの特段の事情があり、生活困窮者向け事業が必要と認める人、のいずれかが示されています。実際の利用可否と手続きは、福祉事務所、自立相談支援機関、事業者の連携で決まります。
生活保護を利用している人が自分だけで手続きを切り替えるものではありません。担当ケースワーカーや福祉事務所へ、「就労準備支援事業を利用できるか」「被保護者向けの就労準備支援との連携があるか」を相談してください。
対象外・利用時の限界
就労準備支援事業は、困りごとがあれば必ず利用できる制度ではありません。次の点は、相談前に知っておきたい限界です。
- 生活費を直接支給する制度ではない:家賃や食費が足りない場合は、住居確保給付金、居住支援、生活保護などを別に確認します。
- 就職を保証する制度ではない:本人の状態を確認しながら目標を決めるため、利用期間中に必ず就職できるとは限りません。
- 全国共通のメニューではない:通所、職場見学、ボランティア、就労体験、パソコンやビジネスマナーの研修など、何を利用できるかは自治体・委託先で異なります。
- 療養が優先される場合がある:傷病の治療中で現時点では就労が難しい人は、まず医療サービスにつなぐことが適切な場合があります。
- 本人の希望と支援目標が合わない場合:就労準備支援は、本人の希望や状態を確認しながら目標を作る支援です。就労を希望していない、または育児・介護・療養など別の課題が中心なら、就労準備支援だけでなく、自立相談支援機関で生活全体の支援先を確認します。
- 通所が難しい場合:ひきこもり状態などで事業所へ行けない人は、直ちに対象外と決めつけず、先に自立相談支援機関の訪問・関係づくりの支援を相談します。
- 障害がある場合:障害特性に合う就労移行支援などを第一に検討するのが基本ですが、本人が希望し、自立相談支援機関が適切と判断した場合は、就労準備支援の利用が妨げられるわけではありません。
生活費そのものが足りない場合は、就労準備支援だけで解決しようとせず、生活保護の相談・申請も同時に行ってください。
どのような支援を受けられる?
支援は、日常生活自立、社会生活自立、経済的自立の3つの視点で組み立てます。日常生活を整えてからでなければ次へ進めない、という一律の順番ではありません。本人の状態や希望を確認し、複数の支援を組み合わせます。
| 視点 | 支援の例 |
|---|---|
| 日常生活自立 | 面談やプログラムを午前中に設定するなど、生活リズムや適切な生活習慣を整える支援 |
| 社会生活自立 | 支援員・他の利用者との会話や共同作業、職場見学、清掃などのボランティア、地域活動 |
| 経済的自立 | 就労体験、適性の確認、キャリア相談、基礎技能の訓練、企業とのマッチング、履歴書・面接の準備 |
実施形態には、事業所へ通う方式、地域の協力事業所で職場見学・就労体験を行う方式、自治体によっては合宿方式などがあります。すべての地域で同じ支援が用意されているわけではありません。
就労体験は「雇用」とは別に扱われることがある
就労準備支援事業の就労体験は、短期・軽易な作業を体験するもので、雇用契約を結ばない形が基本です。したがって、一般のアルバイトと同じ賃金、労働時間、雇用保険が当然に保障されるものではありません。
一方で、工賃や報奨金などの金銭が支払われる場合もあります。開始前に、作業内容、日時、報酬、交通費、欠席時の扱い、雇用契約の有無を、事業者との確認書で確認してください。実際の働き方によって労働者性が問題になる場合があるため、疑問があれば自治体の担当者へ相談します。
雇用契約を結んだ支援付き就労などを検討する「認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」とは、目的や扱いが異なります。就労準備支援でどこまで進めるかは、アセスメント後に決まります。
利用までの流れ
- 自立相談支援機関へ相談する:「すぐに働けない理由」「生活費・家賃の状況」「いつまでに何が必要か」を伝えます。
- アセスメントを受ける:生活、心身の状態、社会との関わり、就労経験、世帯の収入・資産などを一緒に整理します。
- 支援プラン案を作る:自立相談支援員が、就労準備支援を含む支援の組み合わせを検討します。
- 支援調整会議と自治体の支援決定:本人の同意を確認し、関係者でプラン案を協議したうえで、自治体が利用を決定します。
- 就労準備支援プログラムを作る:本人と支援員で、課題、目標、具体的な支援内容を文書にします。
- 支援を受け、定期的に見直す:おおむね1~3か月ごとに振り返り、必要に応じてプランや支援内容を修正します。
自分で事業者を探して直接申し込むより、まず自治体の自立相談支援機関へ相談する方が、家計、住まい、医療、生活保護などを含めて支援を組み立てやすくなります。
利用期間と期限
利用期間は原則1年以内です。ただし、長期のひきこもり、障害が疑われるものの手帳取得に至っていない場合、離転職を繰り返して職場定着が難しい場合など、長期的な支援が必要と自治体が認めるときは、1年を超えて利用できる場合があります。
1年を超えて継続する場合は、本人と支援関係者が1年間の支援内容と状態の変化を確認し、支援調整会議で継続の必要性を検討します。自動的に延長されるわけではありません。
就職した場合は原則として利用終了ですが、週1~2日程度のアルバイトから定着や正社員就労を目指す場合など、相談のうえで支援を続けられることがあります。
この事業自体には、給付金のような全国共通の申請締切はありません。ただし、家賃の滞納、電気・ガスの停止、退去日、保護申請など別の手続きには期限や緊急性があります。相談時は「一番近い期限」を最初に伝えてください。
相談時に必要な書類
就労準備支援事業の必要書類は、自治体の様式や世帯の状況によって変わります。最初からすべてをそろえられなくても、相談を先延ばしにしないことが大切です。窓口へ電話し、必要な書類を確認してください。
| あるとよいもの | 確認される内容 |
|---|---|
| 本人確認書類・連絡先 | 氏名、現在の住所・居所、電話番号など |
| 世帯の状況が分かるもの | 同居家族、世帯構成、住民票など。必要かどうかは自治体に確認 |
| 収入が分かるもの | 給与明細、年金・手当の通知、雇用保険関係書類、事業収入の記録など |
| 資産が分かるもの | 預貯金通帳、残高が分かる資料など。提出範囲は窓口に確認 |
| 住まい・支払いの資料 | 賃貸借契約書、家賃・公共料金・税金の請求書、滞納通知、退去通知など |
| 就労や心身の状態に関する資料 | 離職票、職歴のメモ、診断書や障害者手帳など。該当する場合だけ準備 |
自治体側では、アセスメントの内容をもとに支援プランを作り、利用開始時に「就労準備支援プログラム計画書」を本人と一緒に作成します。これは相談者が最初から作成して持参する書類ではありません。
給付・貸付・相談支援の違い
| 制度・支援 | 主な役割 | お金の扱い |
|---|---|---|
| 就労準備支援事業 | 生活リズム、社会参加、就労体験、就労に向けた準備 | この事業自体が生活費を給付する制度ではない |
| 家計改善支援事業 | 家計の見える化、支払いの整理、関係機関へのつなぎ | 必要に応じて貸付をあっせんすることがあるが、貸付そのものではない |
| 住居確保給付金 | 離職などで住居を失うおそれがある人の家賃相当額を支給 | 要件を満たした場合の給付。就労準備支援とは別に判断 |
| 生活福祉資金など | 生活や福祉に関する資金を借りる制度 | 貸付であり、原則として返済が必要 |
| 生活保護 | 最低生活の保障と自立の支援 | 福祉事務所で申請・調査・決定される別制度 |
家計の滞納や借金が中心なら、家計改善支援事業も確認します。今夜の住まいがない場合は、居住支援事業へ緊急性を伝えます。就労準備支援だけを先に選ぶのではなく、複数の支援を組み合わせる制度です。
相談先は自立相談支援機関
最初の相談先は、住んでいる市区町村などの自立相談支援機関です。窓口名や委託先は自治体によって異なるため、市区町村の代表電話へ「生活困窮者自立支援制度の自立相談支援機関につないでください」と伝えてください。
厚生労働省の「自立相談支援機関 相談窓口一覧」では、都道府県別に窓口を確認できます。掲載がない場合は、都道府県または市町村へ問い合わせる案内になっています。
自立相談支援機関 相談窓口一覧(みんなつながるネットワーク)
生活保護を利用中なら担当ケースワーカーまたは福祉事務所、病気の治療が必要なら医療機関、障害特性に合う支援が必要なら障害福祉の相談窓口にもつないでもらいます。食べるものがない、今夜の住まいがないなど緊急の場合は、その状況を電話の最初に伝えてください。
まとめ
就労準備支援事業は、いきなり求人へ応募するのではなく、生活リズム、他者との関わり、地域での活動、就労体験などを本人の状態に合わせて整える支援です。
- すぐに就職することが難しい生活困窮者が対象になり得る
- 収入・資産の基準があるが、自治体が必要と認める準ずるケースもある
- 利用期間は原則1年以内で、必要性が確認されれば延長できる場合がある
- 生活費の給付や返済が必要な貸付ではなく、就職を保証する制度でもない
- 相談先は市区町村などの自立相談支援機関で、家計・住まい・生活保護と同時に相談できる
「働けない」と感じている理由が生活リズムなのか、心身の状態なのか、住まいや家計の問題なのかは、自分一人では整理しにくいことがあります。就職を急ぐ前に、今の状態をそのまま自立相談支援機関へ伝えてください。


